チィちゃんとケンちゃんは、私が一人暮らしをしていた街に新居を構えた。
私がお世話になった不動産屋の同じ担当者を紹介し、すぐ近所に引越してきたのだ。
姉妹とはいえ、ある程度の距離があったほうが良いのでは...?という考えだったので、私は正直、そのことを複雑な気持ちで受けとめていた。
その頃、新婚の二人がしょっちゅう大喧嘩をしていることを知った。
母からだったかお姉ちゃんからだったか、それは結婚式の準備をしている時からだったと聞いた。
結婚式の準備でダンナさんが非協力的だったりして喧嘩になるという話は、その辺によくあることだ。
だから、私は特に気にもとめなかった。
ある日、ふいに家のチャイムが鳴った。
ドアを開けたらそこにケンちゃんが立っていた。
「今、チィと激しくやりあっちゃって、ちょっと帰れないんだ。
俺、ちょっと外に出てくるから、後で様子を見にいってやってくれないかな?」
話は本当だったんだな。しょうがないな...。
私がチィちゃんの家に行くと、何事もなかったかのような顔をしてチィちゃんが出てきた。
「ちょっと喧嘩しちゃってね。でも大丈夫。」
チィちゃんは私には良い顔をする。
そのことを知っていたのか、ケンちゃんが私を派遣したことは正解だったようだ。
GWに私はお姉ちゃんに誘われて旅行に行くことにしていた。
その準備をしている時、チィちゃんから電話があった。
「ケンちゃんと喧嘩して、ちょっと一緒に居たくないの。
旅行に行ってる間だけ、部屋貸してくれないかな?」
私は嫌だった。
「いいけど、そんなことしたら仲直りが遅くなるんじゃないの?」
とかなんとか言っているうちに
「そうだね、頑張って仲直りするわ」
とあきらめてくれたのでホッとした。
何年も経った頃、お姉ちゃんから話を聞く機会があった。
二人の「喧嘩」の内容について。
「ただの夫婦喧嘩じゃ済まされないような感じなんだよね...。」
聞くと、喧嘩はチィちゃんが一方的にキレて、物を投げたりケンちゃんを殴ったりするらしい。
それだけじゃない。
「チィちゃんね、ケンちゃんの首を絞めようとしたんだって...。」
それを聞いて「あぁ...」と目の前が真っ暗になった。
なんてことだ。前よりもひどくなってたなんて。
私が勝手に抱いてた「ケンちゃんなら」という思いは幻想だったのだ。
チィちゃんにとって一番身近な存在になったケンちゃんは、私やお姉ちゃんの身替わりとなってしまっていたのか。
母からは別の話も聞いていた。
実家に二人で帰ってきた時の二人の様子。
どうやらチィちゃんは何かにつけてケンちゃんを叱るらしい。
それは駅でチケットを買う時などにケンちゃんが少しでもチィちゃんの思うように動かなかったときにイライラしてそうなるらしい。
「使えないヤツ」というふうになじるのだ。
母が親としてチィちゃんを叱るようなことをしないのも良くないとは思った。
でも、ケンちゃんをかばうような事を言おうものなら、ものすごい反発をくらうのは私も知っていたから、母を非難することはできなかった。